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    UO短編 / Chocolate Daemon

    • 2018.03.24 Saturday
    • 23:59

     

     

    昨日の夜に打ち上げパーティが行われた、

    『ブリテイン文芸大会 [Fourth] 〜アンさまを離さないで〜 / in Hokuto』

    に投稿した拙作(小説)の、Web版という形になります。(その1)

     

    UOの二次創作ですけど、知らない方でも、乗りと勢いで楽しんで頂けたらなと思います。

     

    また、北斗での展示は4月いっぱいくらいまで続くそうです。

    のでブリタニアンで未読な方は、他の方の作品もぜひどうぞ。

    アンさまのブログはこちらですよ → ブリ首長にまたなったAnneの日記

     

     

     ◇

     

     

    『 Chocolate Daemon 』

     

    著者名 lighthouse vege

     

     

     ◇

     

     

     その寺院は古びておりました。
     もう誰も覚えていないほど昔のこと、きっと何か願いを持った魔法使いが悪魔達を召喚し、そして滅びてしまったのだろうと言われます。
     今ではその事すらも忘れられ、勇者の訪れることもなく、意義を失った悪魔達の溜まり場であり、吹き溜まりでしかありません。

     

     一人の少女が現れました。
     名をNorika、そばかすの目立つ、軽いくせ毛の女の子です。彼女はけして裕福な身なりではありませんが、おそらく困窮するほど貧しくもないでしょう。
     両手に一羽、無作法に絞められた鶏を抱えています。きっと苦しみながら死んでいったはずです。彼女の腕には引っかき傷が出来ていました。
     そしてそのまま、バックパックの秘薬を確認するでもなく、まして剣を抜くでもなく、危なっかしい足取りで寺院の中へと入っていってしまいます。

     

     彼女は呼び掛けます。「……悪魔、さん。悪魔さん……!」
     寺院の中央、砂岩で造られた汚れた大階段の前で、まるで苦手な親類の家にでも訪ねるような気軽な所作で、大きな声を上げました。
     外ではたくさんの野生の獣が鳴いています。ですが大階段と同じ材質の、崩れかけた塀よりも内側には、音を立てるものはおりません。その少女を除き。
     しばらく時が流れました。長くはありませんが、重たくて血なまぐさいものを持った年若い女の子が、恐ろしい場所に心挫けそうになるくらいの時間です。

     

    「……なーんだ。やっぱり嘘じゃないの。悪魔なんて居ない、帰ろっかな」
     自分の放つ言葉に安心したのでしょうか。鶏の躯が手から滑り、大階段の一段目に落ちてしまいました。べしゃりと嫌な音がして、血が飛び散ります。
    「やだ、お洋服が汚れちゃう」
     彼女は慌てました。慌ててしまったせいで、砂岩が血を吸い取り始めたことを見逃しました。そう、この寺院での作法をまったく知らなかったのです。

     

     カツと、小さな硬い音を立て、最上段に赤い巨躯が降り立ちました。なのに生贄を捧げてしまった少女は、いまだにスカートの裾を拭うばかり。
     のしりと重く、ばさりと激しく、巨大な蝙蝠のような翼を広げて、悪魔が動き始めます。ようやくその威容が、彼女の視界を捕らえたようです。
    「もう帰ろ……。あ、え、は……はは? 冗談でしょ」
    「……我を呼んだな、小娘よ」
     当然、悪魔に冗談は通じません。

     

     人間が登るには大きかった階段が、悪魔の赤い蹄にはちょうどよく、一歩、一歩ゆっくりと確かに、少女の方へと歩を進めました。
     腰が抜けるとはこのことでしょう、悪魔の降りてくる速度は彼女の走るそれよりもずっと遅かったのに、扉もない門へと逃げ出すことさえ出来ません。
    「やだ」
    「何を捧げる」
    「やだ」
    「何を望む」

     

     巨大な腕が伸ばせば届く距離に、なりました。恐ろしくも神々しい、ヒューマンの数倍はあろうかという身長、体重ならば十倍でも収まらないことでしょう。
     それがかろうじて人の形。そんなものが、まだ背も伸び切らない少女の前に立つのです。戦えというのは理不尽、逃げろということさえも、果たして。
    「助けて、ごめんなさい、ごめんなさい」
     目を逸らすことさえままならず、無様に許しを乞う少女を放って、悪魔は階段を飾る鶏に気が付きました。それをまさしく鷲掴みにすると……、

     

     肉食の獣でさえ立てないような恐ろしい音を立てて、咀嚼します。噛み千切り、砕き潰し、溢れる血を啜り、じっくりと味わってから飲み込みました。
    「うまい」
     一言、そう呟きます。
    「ひっ!」
     一呼吸、そう返されます。
     少女はもう、何を考えることも出来ず、自分がどうしてこんな所に居るのかさえ、忘れてしまったのかもしれません。ただ、怯えるばかりで。

     

    「小娘よ、問おう。何を願う」
     悪魔はずっと言葉でもって、少女の前に居りました。けして腕を振り上げることも、魔法を放つこともなく。ただ、それだけです。
    「助けて!」
     少女は助けを求めました。けして悪魔の言葉に耳を貸すことなく、敵わない脅威を前にせめて叫ぶ、とても正しい判断です。
     ですから、唐突に三人目の姿が現れます、魔法による転移からの。
    「そこまでよ!」と。誰かの言葉はまるで、英雄のように。

     

     エクスプロージョンでした。エナジーボルトでした。あまりにも古典的な上位魔法の合せ技。しかしその手に輝くのは、真新しいスペルブック。
     悪魔を滅ぼす為の呪いが込められた、加えて魔法の力を増幅する、その悪魔でさえ知らない、デーモンという種を一息で滅ぼすマジックアイテイムでした。
    「ほい、もう大丈夫よ。どうしたの? なんでこんな所にいるの?」
     偶然通りかかった冒険者の女性によって、少女は無事に連れ帰られることとなります。その女性はどうやら、徳を貯めに来た巡礼者のようでしたが。
     結局、少女の願望が語られることはないままに。きっと大して特別な願いではなかったのでしょう。悪魔に頼る必要など、なかったのです。

     

     古びた寺院に悪魔が眠ります。意義を失い、恐怖を失い、もはや価値など無い己の内実を知りながら。無様に愚かしく、日々を安らかに眠り続けています。
     ですが“彼”はまどろみの中で呟きました。
    「……嗚呼、今日は、実に善き日であった……」
     肉体で生きる世界から、たった一層だけずれた彼の世界で、とろりと甘くて、バレンタインのこんな日にふさわしい、ほろ苦い幸運を味わいながら。
     その赤い悪魔に定まった名は、ありません。

     

     

     

     

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